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G**C
文化地理学の再構築を試みた「新しい文化地理学」を代表するテキスト
〔Jackson,P(1989):Maps of meaning:an Introduction to Cultural Geography.Unwin Hyman,213p.〕 当書は1989年にUnwin Hymanから初版が発行された文化地理学のテキストである。著者はイギリスのシェフィールド大学人文地理学教授のピーター・ジャクソン(Peter Jackson)氏であり、文化地理学の始祖カール・サウアー(Carl.O.Sauer)とバークレー学派の文化概念や文化地理学理論を詳細に分析・批判しつつ、カルチュラル・スタディーズ(CS)や周辺諸科学の社会理論や文化理論を積極的に取り入れ、文化地理学の再構築を試みたテキストである。いわゆる「新しい文化地理学(new cultural geography)」のまとまった最初のテキストして好評を得て、当書はその後Routledge社よりpbk(ペーパーバック)が1992年に再版され、その後数次にわたり版を重ねている。また2003年にはe-book(電子書籍)でも提供されている。当書は文化地理学の“新しい古典”であり、英語圏における当該分野の学部生・院生の必読書として現在に至るまで読み継がれている。 文化地理学の始祖であるサウアーが構想した文化地理学は(自然)環境決定論の克服がその根底にあった。サウアーとバークレー学派の文化地理学は、文化それ自体が独立し、歴史的必然によって形成されたものであるとし、眼前に広がる景観も視覚的、客観的に認識可能な対象のみに限定している点が特徴的である。アメリカ文化地理学の主流を成したバークレー学派が中心となって強力に推し進めた文化地理学は、伝統的生業や農民的社会、物質文化など、環境変化を引き起こす人間の主体的役割を強調した生態学的文化地理学が研究の中心となった。その一方で、都市文化、イデオロギー、人間の観念といった表象文化などの非可視的な現象は研究対象としては等閑視された。 このようなバークレー学派の文化概念や文化景観論に関して、「文化決定論(cultural determinism)」であると指弾され、多くの批判的検討が行われた。文化をエリートなもの、高級なものとして捉えず、そうした支配的階層の価値に対極するものとして民衆(大衆)文化を評価し、少数派の視点から考察されるなど、現実空間に存在する文化の多元性を認め、文化を創り出す人間の多様性に強い関心が向けられるようになる。また文化とは、様々な人間集団の意図がぶつかり合い、社会的、経済的、政治的状況がそこに影響を与え、その結果として出現するものと考えるようになった。こうした文化概念の大きな変化は文化論的転回(Cultural Turn)と呼ばれ、1980年代以降に顕著となり、こうした文化概念を主眼に置く文化地理学は「新しい文化地理学」として従来の伝統的(古典的)な文化地理学とは区別された。 著者のジャクソン氏は、当書のなかで、文化とは空間に意味を付与する様式であるとし、その意味はときに空間における激烈な競争が展開するとしている。当書では、民衆文化、ジェンダー、セクシュアリティ、レイシズムなどを例に、これらの文化が、社会的、経済的、政治的な状況や人間集団の意図をめぐって、空間における共有や意味の競い合いが生じる過程を明らかにし、空間の多様性を現実の生活空間に描き出すことが「新しい文化地理学」の目的であると述べている。またジャクソン氏は、とくに巷に溢れる文化主義(culturalism)あるいは文化決定論的な言説を戒めるべきだと警鐘を鳴らしている。 なお、当書の邦訳書は1999年に玉川大学出版部より刊行されたが*1、共訳者による翻訳上の誤りが多数にのぼるため、テキストとしての利用を困難なものとしている。当該邦訳書を利用する際には林・中俣(2003)*2が参考になる。この論考は誤訳の指摘に終始した異例の書評となっているが、翻訳上の誤りや問題点を指摘し、詳細な正誤表を掲載しており、当書の正確な理解に資するものとして適宜参照願いたい。*1 P.ジャクソン,徳久球雄・吉富亨訳(1999):『文化地理学の再構築―意味の地図を描く―』玉川大学出版部,268p.*2 林勝一・中俣均(2003):訳書『文化地理学の再構築』をめぐる問題点.法政地理35,pp.49-61〔『Maps of meaning』目次〕※日本語訳 序論 意味の地図 第1章 文化地理学の潮流 第2章 様々な問題と代替案 第3章 文化とイデオロギー 第4章 民衆文化と階級のポリティクス(政治力学) 第5章 ジェンダー(社会的性差)とセクシュアリティ(性意識) 第6章 レイシズム(人種主義)の言語 第7章 言語の政治力学 第8章 文化地理学の課題〔『Maps of meaning』正誤一覧〕当書には誤植とみられる箇所が見られる。以下にその訂正箇所を示した。左から(ページ) (行) (誤) (正)の順に記載197ページ 11行目 Leighly,J.(ed.)1967.… Leighly,J.(ed.)1963.…※初版[Unwin Hyman社発行]は勿論のこと、再版[Routledge社]及びe-book[電子書籍版]でも現在まで訂正されていない。【2021年9月2日投稿】【2022年2月12日更新】
E**N
Interessant für den Interessieren
Ein schönes Buch, das, zwar nicht mehr ganz aktuell, aber dennoch spannend, in einige Fragestellungen der Kulturgeographie einführt. Wenn man sich begeistern kann und Interesse mitbringt, außerdem gute Englischkenntnisse und ein wenig Fachbucherfahrung, macht es Spaß, dieses Buch zu lesen.
Trustpilot
2 months ago
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